小さい人の挑戦とその成果

伸びきった爪を切ろうと、爪切りをだし、ゴミ袋を広げた。小さい人が、ニコニコしながら右手の人差し指を差し出してくる。切ってくれ、と言うらしい。

つい先頃まで、爪切りは嫌いだったはずだ。爪切りを持つと手を引っ込めてにゃーにゃー泣いた。ところが今日は、ニコニコしながら指をだしてくるのだ。

人差し指の小さな爪を、ぱちん、と切ってやると、さも満足したかのように、うんうん、と頷いて、また歩き出した。とっても満足げである。そういえば、いつのまに頷くことをおぼえたのだろう。

わたしが自分の爪を切り始めると、小さい人はまたニコニコしながら指をさして近づいてくる。ぱちん、ちょっとだけ切ってやると、また満足して頷いて、部屋を一周とことこと歩き回る。指を差し出す、ぱちん、うんうん、ぐるぐる。

小さい人の学習は面白い。教えたことがすぐできるようになることもまれにあるが、何週間も何ヶ月もかけて、彼女の中で見えない挑戦が持続していたかのように、ずっと前に教えたこと、ずっと前に始めたことがある日突然できるようになっていたりする。今日の爪切りもそうだ。

そういえばここ数日、歯磨きをいやがらなくなった。以前は泣いて喚いて全身全霊で拒否をしていたのに、このところ「はみはみするよ」というと、ニコニコして自分で歯ブラシを持ってくる。ときどき歯磨きを忘れて寝る準備に入ろうとすると、自分で歯磨きの身振りをして教えてくれる。

あれだけいやがっていたのに、突然にだ。

小さい人の中で熟成されてある日突然、ひょい、とできるようになる。そういえば、ベビーサインもそうだ。まだ何もわかっていなそうな小さい人に対して、いつも手話を交えて話していた。最初は全く真似もしてくれず、わたしの意図が通じているようにも見えなかった。まぁ、そう簡単にできることじゃないな、と思っていたのに、ある日突然、手話で話してくれるようになった。

小さい人の挑戦には持続性があって、一度できるようになると反復を繰り返す。初めて目で見ながら手で触れるようになったとき、初めて立ち上がれたとき、初めて歩けたとき、それらも何度も何度も繰り返した挑戦の結果できるようになり、一度できるようになると、目を輝かせて全身から喜びをまき散らしながら、さらになんどもなんども繰り返す。

そのときの、嬉しそうな顔。学習とはこういうことなのだ。

そして、その挑戦の途中に、大人の都合でそれを中断させたときの怒り、悲しみ。毎日の暮らしの中で、小さい人は何度となく、大人の都合でいろいろなことを中断させられている。できることならば、やりたいことを思う存分やらせてあげたい。

そんなことを思うわたしのそばで、今日もすやすやよく眠る小さい人であった。

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