一生涯続けたストーキングが実を結ぶ話 – コレラ時代の愛

ずっと前に書いた読書感想文が出てきた。5年以上前に書いたもの。

コレラの時代の愛
コレラの時代の愛

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ガブリエル・ガルシア=マルケス
新潮社
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装丁がとても素敵。カバーのデザインも素敵だし、カバーをはずした裸の本も素敵。手触りも好き。 ガルシア・マルケスは『予告された殺人の記録 (新潮文庫)』でハマリ、『エレンディラ (ちくま文庫)』を読み、これが3冊目。

予告された殺人の記録 (新潮文庫)
G. ガルシア=マルケス
新潮社
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『予告された殺人の記録』ではまったのは、その構造の妙もさることながら、ディテールの描写が、かなり好みだったためだ。

うまく表現できない己の語彙の乏しさに情けなくなるのだが、なんとうか、からりとした感じ、なのだ。からりとした感じで、お腹からぶら下がる腸がお日様の光にキラキラ光っている感じなんかが描写されている。

『コレラの時代の愛』も、随所随所に、なんともいえない、からりとした、なんとなく滑稽に見える表現がたくさんでてくる。話の本筋にはまったく関係なく見えるディテールの描写がいいのだ。

さて、描写はともかく、この話はすごい。

二十歳くらいの男が、ある少女に恋をした。彼は何ヶ月もじっと彼女を見詰めていて、彼女のほうも気づいていて、お互い意識しあうようになる。男は勇気を出して手紙をわたす。しばらく返事がなかったのだけれど、彼女も返事をかく。その後しばらく二人は熱烈な手紙のやり取りをしていたのだけれど、女のほうの父親の反対にあい、女は父親に連れられて旅にでる。旅にでている間も二人は熱烈な手紙をやり取りし、恋の熱にうかされる。旅にでて1年半後、出会って4年後、街に戻ってきた女は、偶然を装って市場で声をかけてきた恋人、手紙のやりとりだけで愛を語らっていた恋に会い、一瞬で恋が醒める。

その醒め方がすごい。いや、女はこう言うものだ。もう、自分がその人に恋していたことすら認めたくないような、一瞬で嫌になってしまうのだ。ああ、あれは単なる勘違いだったんだ。ごめんなさい、勘違いだったのよ。

女はその後、一人の博士と結婚し、幸せな結婚生活を送る。その間も最初の男は彼女を片時も忘れることができず、独身を貫き、何十、何百という女とアバンチュールを楽しむ。それはそれでちゃんと女性たちを愛しているのだけれど、結局のところその一人の女性が忘れられない。自分の家を彼女と結婚した時のために改装し、たくさんの女たちと愛の行為を持つが、自分の家ではそれはしない(一人を除いて)。 何をやっていても、毎日毎日、彼女のことを考えている。

その「忘れられない」身勝手さもすごい。自分がきっかけで女が殺されても、自殺しても、まず考えるのは「これが彼女の耳に入ったらマズイ」という保身からくる不安。とにかく、おなじ街に暮らしていて、それぞれが社会的地位もあるので、何度も顔を合わせることがあるものの、女のほうはもうなんとも思っていなくて、どうも、と挨拶する程度。

しかし、男のほうは、彼女の夫の死を望み続ける。そしていずれ彼女と結ばれることを疑わない。 これは今で言ったらストーカー。愛情というより執念に近い。

念願かなって彼女の夫が死んだとき、彼が恋に落ちてから51年と9ヶ月と4日目、彼は彼女の夫の葬式の後、再び彼女に愛の告白をする。当然のごとく、彼女はものすごい嫌悪感を感じて、もう二度と来るな! といって追い出す。

ところが、ここで終わらない。彼は再び彼女にラブレターを送り、それも、若い頃のとはちがう、思慮にとんだものを送り、彼女はそれで夫を失った悲しみから立ち直り、感謝すらし始める。そこで、しめたとばかりに、彼女の息子夫婦を丸め込んで、年寄りの慰めになってやってくれと言わせ、気分転換に船旅でも(ちなみにこの男はこのとき船舶会社の社長だった)、と誘い、まんまと、結ばれる。船の旅で、二人は老夫婦みたいに、しわしわの身体、垂れ下がったおっぱいや力のない肉体で愛し合う。

が、身分のある彼女が未亡人とはいえ80近くになって男と旅をしているのがばれるのはマズイ、ということで、船でコレラが出たということにして、他の客を全部拒否して帰路につく。さいごのさいご、岸につくかというときに、検疫を受けろといわれ、船は逃げ場がなくなる。

じゃあ、また川を上って逃げよう、と男はいう。それに対し、いつまでそんなことを続けるのか、と船長は問う。そして答える。「命の続く限りだ」。この答えは53年7ヶ月11日前から決まっていた。

と、ざっくりこんな話。すごすぎる、これは一生をかけてストーキングしてそれが実を結んだ話、みたいに読める。みんなの身勝手さもすごいが、人生は終わっちゃえば終わりなんだから、好きなようにとことんやるさ、というのが伝わってくる。

それから、女の気まぐれさも。 すごいぞ、と思う反面、でも、ここまでじゃなくとも、例えば新しい恋人ができても、忘れられない人がいるというのはざらにあるはなしだろうと思う。ただ、それが身を結んじゃうところがすごいが。

この男がたくさんの女性遍歴を重ねてきたのも、なぜ女性に愛されたのかも、たぶん、その「忘れられない人」がいるというのがポイントなんじゃないかと思う。 気楽な関係でいたいと望む女からすれば最適、恋をしているほうから見たら、捕まえられない男と言うのはますます追い駆けたくなるものだ。だから、ある種の女性から見たら、この男はひどく魅力的で、愛の対象としては素晴らしい人だったのだろうと思う。

しかし、二十歳くらいから80歳近くまでの生涯が、一冊の本の中にあり、それを一晩で読んでしまうと、ああ、自分が80になったとき、かつて恋した人に会ったらどうなるんだろうなぁ、なんて考えてしまった。人生はとっても短そうだ。

この本は、主人公の女の夫がその友人の死に目にあうところから始まり、おなじ日にその博士も死ぬ。死、老い、というものが生々しく溢れている。

オススメ。

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