お猫様のジャム

数年前、かつて一緒に暮らしていた猫を、自分の都合で友達にあずけて国を出た。そのお猫様に会いに帰るたび、彼女は「なに、いまさら…」みたいな顔をして、ちらっとわたしを見ると、ぷいっと立ち去ってしまう。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

なんと言っても言い訳でしかないけれど、わたしは彼女を捨てたのだ。今更また一緒に暮らしたいだなんて、都合のいいことを言ってごめんなさい、でも一緒に暮らしたいの。そういって何度も面会にいった。

預かってくれているお家ではずいぶん可愛がってもらっている。お友達も手放したくないと言う。でもまたいつか一緒にくらしたい…

そう思っている矢先に、友人から、お猫様が野良犬に噛まれて亡くなった、と連絡が来た。

野良犬に噛まれて死ぬだなんて、そんな苦しい死に方。けっきょくまた一緒に暮らすことはできず、許してもらうこともできないまま、彼女は死んでしまった。

友人は、自宅の庭に彼女を埋め、その上に小さなみかんの木を植えてくれた。しばらくして「みかんが爆発しているからジャムでも作ろう」と連絡が来た。

ひとつひとつみかんを摘んで、切って、砂糖と一緒に煮詰めた。わたしのお猫様のジャムだ。このみかんは、彼女の死体を食べて育ったんだ。それをわたしが今食べる。

彼女はとてもとても優しい猫だった。一緒に暮らした友人達もみな、あんなに優しい猫は見たことがないと言う。家の中で気持ちの落ち込んでいる人がいると、その人のそばにそっと座っているような猫だった。窓の外に閉め出されて、本気でアワアワした顔でニャーニャー鳴いているような猫だった。

友人曰く、死の数ヶ月前から、お猫様はずいぶん穏やかで幸せそうになっていたのだそうだ。調度その頃、わたしはいろんな自分の中の苦しみから少しずつ脱却しはじめた頃だった。「あなたの苦しみが減ったのを感じて、あの子も幸せになったのかもね」。友人の言葉に本当に泣けた。

I love you。

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